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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
「葵、ビール運んで来たでしょ?その時にアキラ達に絡まれてたじゃん?」
「………」
しかし智之の説明に、あの時の話題が持ち出されるとは思いもしなかった。
"絡まれる"という表現は適切では無いが、アキラというのは葵の尻を叩いた男だ。
あの時の事を思い出せば、今でも恥ずかしさが込み上げてはくる。
けれど森川の反応も気になっていたのも確かで、葵は智之を見つめたまま頷いた。
智之がやけに取り繕ったような話し方をしていたのは、覚えているけど……。
「あの時さ、あの人、あいつらの事じっと見てたんだよね。ガンつけてるとかじゃ無いんだけど……何て言うの?俺はすぐにヤバイと思ってフォローしたけど、今にも喧嘩売るんじゃないかって雰囲気だったんだよ」
「そうなんだ」
「あの人ってデカいじゃん。だから余計に威圧感があるんだと思うけど、あいつらが大人しくなるって相当だと思うよ?」
「そうかなぁ……」
「そうだよ。まぁ、何も無くて良かったけどさ、あの人のあの態度って常識に欠けてると思うんだよね。それなのにその後は何も無かったみたいに普通でさ……ちょっと、なんなんだろうこの人って思ったかな」
「…………」
"何が言いたいんだろう、この人……"と首を傾げたいのは葵の方だった。
常識的な人だから、あの元ヤン達に非難を示したんじゃないだろうか?
立場をわきまえているから、事を荒立てずにいてくれたんじゃないだろうか?
少なくとも葵はそう考えてはいたが、智之の話を鵜呑みにするつもりも無かった。
たぶん智之が森川の態度を威圧的と感じたのは、罪悪感と後ろめたさのせいだと思う。
妻の庇護も出来ないくせに、他人の評価を気にするような男だ。
森川の目に、自分がどう映っていたのか気になったのだろう。
元ヤン達の事は知らないが、自分の中にある森川のイメージや、智之の性格からして、葵はそうとしか考えられなかった。