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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
だからと言って、自分の意見を口に出すつもりは無かった。
智之に対する自分の分析はあくまで推測だと弁えているし、他人の心理について分かったような言い方はしたく無い。勿論、智之の憶測に同調する気も無かった。
ただ、森川に対する言いがかりについては、否定したい気持ち以上に、智之の浅薄さを論い罵倒してやりたい気持ちが沸いてくる。
実際、智之を黙らせる事は簡単なのだ。
智之と同じように頭の中にある推測を全部口に出し、彼の弱味を突いて追い詰めてやればいい。
しかし葵は、たとえそのやり方で相手を言い負かしたとしても優越感など感じないし、寧ろ自分が卑怯者であるかのように感じるタイプの人間だった。
自分のそんな部分は短所だとは思っていない。
けれど攻撃的にでは無く、理知的な方法や言い回しが出来るほど頭の回転が良いわけでも無かった。
だから智之の話……特に噂話や悪意のあるものに対しては『そう』『そうなんだ』と頷く事しかせず、主旨のズレた部分にだけ反応を示して別の話題に誘導するのがいつものパターンだ。
それでも智之は、自分が話したい話題に戻してしまうが……。
しかし今回ばかりは違った。
森川に対する偏見や憶測を押し付けてくるような智之の意図に反する意思表示をしたかった。
智之にとっては『そう』『そうなんだ』は同調と同じ解釈だ。
勿論、否定したところで事実上あの場所でしか森川と会っていない葵に説得力は無い。
それどころか"タトゥー"の話を持ち出して自分の偏った価値観を押し付けてくるだろう。
それならもう"聞かない"という選択肢しか無いと思った。
智之の矛先を自分に向けてしまった方が、こんな男に森川を侮辱されずに済むのだから。