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貴方だけに溺れたい
第4章  秘密

まぁ、いいか。
内容がどうあれ、話題が自分に向けられれば良いだけなのだから。

「ごちそうさまでした」

繕うように笑う智之を一瞥し、葵は"意味が分からない"といった風に首を傾げながらキッチンへと向かった。
智之に倣い、笑顔を返す気にはならない。
智之の『可愛い』は、葵の機嫌が悪かったり、言い訳が立たない場合によく使われる言葉だ。
そう言えば葵が気を良くして、自分の話を聞いてくれるとでも思っているのだろう。

後ろめたさがあるから、相手の顔色が気になるのだ。
いい加減、気付いてよ。

「でもさ葵、本当だよ?」
「なにが……」
「森川さん」
「…………」

しかも、しつこい。

葵が席を外した後、智之はもっともらしい理由を考えていたのだろうか。
わざわざ自分の食器を運んで来るなり、再び森川の名前を口にした。

「俺が言いたいのはね、良い人だけど裏がありそうだし、どんな人か分からないから、もしも声を掛けられる事があっても信用しない方がいいよって話。それに近所の目もあるし、また変な誤解されるとアレだし」

"また"って何だ?

「誤解されるような事した事あるかな?私」
「いや、無いけどさ、変な噂立てられても困るでしょう?俺はそれが言いたいんだよ。葵が可愛いから心配してるんだよ?だから気をつけてね?」
「…………」

応える気にもならないが、葵は適当に頷きながら冷蔵庫を開け、さも忙しそうに食材を確認して"夕食の準備"を始める素振りを見せた。

もう聞きたく無いという意思表示。

智之が森川に対してどんなイメージを持っているのか気にならないわけでは無いが、印象操作をするように、勝手な解釈を押し付けられるのは苦痛でしか無い。

どうしてこの人は、そんなにまでして、森川に拘るのだろうか……?




***



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