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貴方だけに溺れたい
第4章  秘密

耳よりも少し低い位置で纏めた髪をシニヨンにし、前髪を整えた後に全身をくまなく確認。
160センチの葵の身長とほぼ同じ高さの姿見には、濃いデニムのスキニーと上半身のラインが目立たないふんわりとしたチュニック姿が映る。

「まあまあかな……」

チュニックの裾を伸ばしながらひとりごちてはみたものの、先日の自分の姿と比べれば"いくらかはマシ"だという程度だ。
何しろ先日はほぼノーメイクに髪はひとつに束ねていただけだし、夜も同様で服装は大きめのTシャツにジャージ。
飲み会の時には身体のラインの出る服は着たく無かったし、首を出したく無いのも理由のひとつだった。

しかし、意図的とはいえ酷い姿だったと思う。
ただでさえ惨めな自分を知られているのだ。
その上であんな姿を晒していたかと思うと、羞恥心ばかりがどんどん積み重なっていく。

たぶん森川が言った"可愛い"は、"面白い"の言い換えだろう。
あの時は本気で動揺して鏡の前で首を傾げていたが、少し時間を置けば色々と冷静にはなるものだ。

でもあの時は、そのお陰で竹村の事はすっかり忘れていた。
智之が戻って来てから『今日は竹村さん来なかったでしょう?』と尋ねられて、"そういえば…"と気付いたほどだ。
しかし後から考えれば、それは"偶然"だったのではないかと思う。

森川が帰る際に見送りに出た智之が、たまたまこの部屋に向かおうとしていた竹村を見掛けたのではないか?
『俺が止めた』とは言っていたが、偶然でなければ智之が竹村を抑える事なんて有り得ないのだから。

しかしそれは、あくまで予想だ。

それよりも"これからの時間"について考える事が多過ぎる。

こうして時間を気にして身なりを整えていても、蟠りが無いわけでは無いのだ。
正直、どんな顔をして森川に会えば良いのかも分からない。
飲み会での出来事に関しては、今でも気まずさが込み上げてくるし、あんな惨めな姿を晒してしまった事に対する羞恥心も忘れていない。

しかし反面では、どうにでもなれと思う部分もある。
投げ遣りとは違う、それは腹を括るしか無いという思いに近かった。



***





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