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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
森林公園の駐車場に着いたのは、9時40分。
時間的には予想していた通りの到着だったが、葵の感覚では遅い事に変わりは無かった。
出入口から離れた場所に車を停め、助手席のバッグと足元に置いたミュールを持って扉を開けると、蒸し暑い空気と蝉の声が押し寄せるように響いてくる。
ついに来た……。
大袈裟だけど、戦いにでも行くような感覚だ。
スニーカーからミュールに履き替え、車を降りる直前にもう一度バッグから取り出した鏡で髪型とメイクを確認する。
此処に来るまでの間に、何度鏡を見たのかと思う。
家を出るまでに数回。
車に乗り込んだ時と信号で停止した際にサンバイザーの鏡で2回。
何度見たって変わらないし、寧ろ汗で化粧が崩れるのはこれからなのに……。
しかしそんな自覚があっても、そうせざるを得ない感情が葵を支配していた。
それが緊張なのかはよく分からない。
ただ不安要素はあるものの、ぞくぞくするような興奮が胸の内から膨らんでくるような気がしているのだ。
覚悟はしている。
だからもしも飲み会での出来事を聞かれたとしても、ちゃんと答えるつもりだ。
あんな惨めで恥ずかしい自分が、現実の日常の姿なのだと……。
それでも今朝の智之の話のせいなのか、森川になら自分の弱味を見せても良いのかとも思える。
"元ヤン達に見せていた森川の態度"
それがどんな態度だったかは葵は知らないし、智之の話すべてを鵜呑みにするつもりも無い。
けれど彼の反応が、智之を動揺させていた事は知ってる。
それにビールを注いだ時の仕草。
あの時の指の感覚を思うと、少なくとも彼は自分の味方なのだと思えてしまう。
勿論それは根拠の無い、自分自身の感覚的な思いだと自覚はしている。
しかしそんな独善的な感情が、葵を奮い起たせているのも確かなのだ。