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貴方だけに溺れたい
第4章  秘密

「結局、人間は非力だって事なんだよね。
力業で腐朽を食い止める事は出来ても一時だけのものでしか無いし、植物本来の機能を狂わせてしまう可能性の方が大きい。だから出来る事って言えば土壌を改良したり環境を整えて、後はもう樹勢っていう、樹木の体力に任せるしか無いっていうのが現状」
「…………」

そうなんだ……。

「ただ、この木の場合は状況が悪くてね。樹齢も100年越えてる古木だから再生が追い付かないんだよ。空洞に雨水が入っても抜ける場所が無いから腐朽ばかりが進行して、最悪、生きたまま倒れる可能性の方が高いんだ」
「……あの」
「はい」
「支えたりはしないんですか?木材で押さえてある木は見た事があるんですけど……」
「支柱は立てるよ。ただ、それだけじゃ進行を遅らせる事にはならないから、この木に関しては空洞を埋める方法でいこうかと思って」
「埋める……」
「そう。ウレタン樹脂っていうプラステック性の硬化剤を入れるんだ」
「……良いんですか?」

ド素人でも、植物の機能を狂わせそうだって思うんですけども……。

「良くは無いね。最近は使わない人の方が多いし俺も使わない方法で処置はしてるんだけど、強硬策だな。空洞に雨水を入れない為に塞ぐ。この木があと何年生きるかは解らないけれど、僅か数センチの腐朽を致命傷にはしたく無いから」

言いたい事は凄く解る。
しかしやむを得ないとはいえ、樹木に化合物を入れる事に対する疑問は残ったままだった。

「……大丈夫なのかな」
「ん?」
「あの、木全体には影響は無いのかなって思って……」

葵の頭の中では、有害な液体がじわじわと樹木全体を蝕んでいく状況を想像していたが、そんなイメージを彼に話したら呆れられるだろうか?

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