この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
「草木は好き?」
「………好きか嫌いかって言えば、好きな方です……けど」
「けど?」
「知識はほぼゼロです……」
予想外な質問をされた事に少し戸惑った。
しかし森川は穏やかな表情のまま「そうか」と応え、腐食部よりも少し下の位置へと手を伸ばしながら続けた。
「空洞は此処から凡そ30センチほど奥に続いてるんだけどね、その部分は言い方は悪いんだけど死んでるんだ。だから直接的な影響は殆ど無いって言えばいいかな」
「え、死んでるの?」
「そう、この形成層の痕。なので腐りはするけど再生はしない。形成層や根っことは別物だと捉えてほしい」
「……はい」
「だから樹木の生育自体には問題は無いんだよ。極端な話、この幹の中がスカスカになって穴が開いたとしても生きる事は出来る」
「…………」
「そういう木は、見た事は無い?」
「……無い。と思う」
言い切れないのは、今まで樹木そのものに関心が無かったせいだけど……。
「そうか。じゃあ今度教えるよ。ブナ林にもあるから」
「え、あるんですか?」
「うん。……で」
「あ、はい」
「この木に関しては、空洞はだいたい君の頭の大きさ。そこからこの亀裂の手前まで樹脂を入れるんだ。全体の大きさから見れば極小サイズでしょ?」
「…………」
なんで私の頭の大きさに例えるんだ……。
しかし両手で頭の大きさを確かめつつ、木全体を見上げれば本当にごく僅か。
何百分の1と捉えてもおかしくは無いほど、小さな空洞だったのだ。
「どれくらいの早さで広がってしまうものなんですか?」
「放置しておくと早いよ。特にこれから秋にかけては台風も増えるだろうしね。その前に見付けて良かったとは思う」
「ああ……そうか。今は中はどんな状態なんですか?」
「昨日のうちに溜まっていた物を抜いて洗浄はしたから、後は中が渇いたら検査をして、問題が無ければ……ってところかな」
「そうなんだ……」
けれど未知の作業は、聞けば聞くほど大変そうだと思った。
***