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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
「少しは安心した?」
「はい、なんだかすみません。色々質問してしまって」
「全然。熱心だなと思ってたよ」
脚立から下り、作業道具を片付ける森川を待ちつつも話は続いていた。
手伝うにも「汚れるから」とやんわりと断られ、借りていたタオルは『洗って返します』と言う前に自分の物と一緒に使用済みの袋の方へと入れられてしまった。
若干、手持ち無沙汰。
しかも再び"これからの時間"を意識すると、すっかり忘れていた不安要素が膨れ上がってくるのも当然の事だった。
腹を括ったはずなのに……。
「凄く解りやすかったんです。恥ずかしい話、私、あまり勉強してこなかった人間なので、基礎的な事も知らないんですけど、話を聞いてるうちにもっと知りたくなってきたっていうか、疑問ばかり浮かんできてしまって、仕事中に迷惑だったかなと……今さらながら思ってるんですけど」
森川が自分を見ていないのが救いかもしれない。
道具を片付け終わり、次に手にしたタブレットへと視線を向けていた彼は、葵の話に「いいね」と笑いつつも、そわそわと視線を泳がせている彼女には気付いてもいないようだった。
「今がそのタイミングなんじゃないの?」
「……そうかな?」
「探究心は貴重だよ。なかなか芽生えない上に、時間が経てば大概は薄れていくしね。だから疑問があれば遠慮なく聞いていいよ。大袈裟に考えずに、興味がある時にはとことん拘った方がいい。一時的な好奇心だったとしても、損する事は無いんだから」
「はい……」
目を伏せながら、淡々と続ける。
その言葉に対しては、葵自身も同感だった。
しかし『それなら』と、森川の好意に甘えるような戯言を返す事も困難になっていた。
このままじゃ、駄目だ。
出来れば金曜日の話題にはふれたくは無いし、ふれて欲しくも無い。
けれど"気になっている事"くらいは解消しないと、せっかくの時間を自ら台無しにしてしまうような気がする……。