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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
「車は嫌だ?」
「ああ、いえっ!全然!」
「そう?別に俺の運転が心配なら、君が運転しても構わないよ?」
「いいえ、とんでもない。勝手に歩いて行くものだと思っていただけですから!」
対して森川は、単純に葵の反応を愉しんでいるかに見えた。
平静を装いつつも素直に驚き、焦りながら弁解する葵に「そう?」とからかい交じりの微笑みを見せながら先を歩き出す。
しかしそんな森川の態度に、全く違和感を感じないわけでは無かった。
この人は本当に何も気にしていないのか……。
それとも忘れているだけ?
自分とは逆に、飄々とした様子で駐車場へと向かって行く彼を追いながら、葵は何処か腑に落ちないものを感じ始めていた。
「気をつけて」
「はい……お邪魔します」
森川は葵が助手席に乗るのを見届けた後、「暑い」と呟きつつ肘下まで落ちた袖を捲り直しながら運転席へと廻った。
車内には熱気がこもり、微かな埃と土の匂い。
そして本能的に意識せざるを得ない、男の匂いが漂っているかのように思えた。
「今、エアコンつけるから」
「あ、はい。あ、この車は7人乗りですか?」
運転席に乗り込んだ森川に車の話を持ち掛けたのも、動揺を誤魔化す為だった。
話さなければいけない事は、分かっている。
けれど彼が扉を閉めた瞬間から、自分を取り巻く空気と共に、全ての動きが制止したような気がしたのだ。
「うん。一番後ろのシートは外してあるから無駄に広いだけになってるけど、車中泊するには丁度いいんだ」
「車中泊!?」
「そう。予定をたてずに出掛ける事が多いから、此処で寝られるようにしてある」
「……」
しかしエンジンをかけ、葵の驚きに苦笑を浮かべた森川の左手がエアコンへと伸びた時、葵はその袖口から覗く黒い影に気付いた。