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貴方だけに溺れたい
第5章 枷
「あらっ、お揃いでちょうど良かったわぁ~」
「……おはようございます」
びっくりした……。
挨拶が一拍遅れたのは、その人物が森川の伯母である秋山陽子だったから。
陽子は葵と目が合うと同時に朗らかな声をあげると、品の良い丸顔の中に優しげな微笑みを浮かべながら軽快な足取りで敷地内へと入って来た。
藍染めの木綿のワンピースにクリーム色の日傘を差し、反対側の手には種類の違うペーパーバックが2つ。
昔からこの土地に住んでいる人だと聞いてはいたが、綺麗な銀髪のショートヘアやその身なりからして、他の同年輩の女性達とはタイプの違う人だとは思う。
「おはよう葵ちゃん。この前はごめんなさいね、急に大きいのがお邪魔しちゃって」
「えっ?……あぁ、いえ……」
「多代さんには電話しておいたんだけど、いつも葵ちゃんが準備してるんですってね。大変だったでしょう?」
「いえ、べつにそんなには……」
「本来ならね、私から葵ちゃんにもちゃんと言っておかないといけなかったんだけど、ちょっと遅くなっちゃった、ごめんなさいね」
「や、それはそんなに、お気になさらないで下さい」
「そう言って貰えると有りがたいんだけど。ただ当分の間、うちの先生が連れて行くと思うから、よろしくお願いしますね。
ちょっと強面だけど真面目だから、仲良くしてあげてって、智之君にもよろしく伝えておいてくれる?」
「あ、はい。わかりました……」
ただ、この人は話し出すと止まらない。
ホースを片付けた弥生が戻って来るまでの間、葵は陽子のマシンガントークに圧倒されながら、更に森川の話題にも戸惑っていたのは当然だった。
この人は何も知らないはずだし、"誰にも話していない"という言葉は信じてる。
しかし相手の目をじっと見て話をする陽子を前にすると、どことなく後ろめたいような、そわそわとして落ち着かない気持ちにもなってしまうのだ……。