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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第9章 見た事のない世界
「あーあ、せっかく久しぶりに綺麗な女抱けるところだったのによ」
「仕方ないだろ、クウに車を回してもらってる。今回は正面から出るぞ」
「ったく……俺達が毎月ここに200万も払ってる意味ねえじゃんよ。こりゃあ一回、クウにカマシでも入れといた方が良いかもしれねえな」
そこまでは二人とも訛りのある韓国語だった。
だけど──その次の瞬間、自分の耳を疑ったのはなぜだろう。
『黙れ』
確かに、聞いたことのある日本語でも韓国語でも英語でもない言葉。
何で聞いたっけ。
ああ──そうだ。
少し前に放送されていた中華ドラマだ。
あまりに音が綺麗で意味を調べたことがあった。
意味は──『黙れ』。
それ以上言うな、言ったらファックする。そんな意味合いのお世辞にも綺麗な言葉遣いとはいえない言葉だ。
「……ユンサ」
私が彼の名前を呼んだことに驚いたのだろう。
二人して大きな目をもっと大きく見開いて私を見つめる。
「兄貴、この女誰だよ」
『ジューコウ』『黙れ』
『ヒョン』『兄貴』
大陸と小陸の言葉だけど、私の中でたった一つの真実につながった。
「女王陛下、あなたも貴族とは言え人間です」
「もし──また何か外の世界を見たいときが有るなら、このVERMINに来ると良いです」
「そろそろ時間ですので私達は先に。」
目でイヴァンに合図をしたユンサは、仕立ての良いジャケットをもう一度羽織り直すと『弟』が手に持っていたタバコに火を付けて、階段を下りていく。
「……なあ、あれ誰なんだよ」
小声で必死に聞いている『弟』
それを無視している『兄』
「ハンソン兄弟……」
まさかの結びついた真実に、私は空けられた自分の誕生年のドンペリさえ全く手につかなかった。