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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第11章 重要参考人の貴婦人様
「でも、前にアート財閥のアイツに殴られかけた時みたいにスーパーマンの如く助けてほしかった。ドラマみたいに追いかけてきてほしかった」
「『生きてるだけで良い』と認めてほしかった」
「『お前のしたことは危険だけど、俺の事を思ったんだな。事件を早く解決するための無茶な行動だったんだな』って、怒った上で最後は笑って欲しかった」
「私はっ──」
「私はっ!……『帝国夫人』なんていうレッテル、欲しくなかった」
最後の言葉は、今の今まで溜めてきた思いやストレスが積み重なって一つになったものなんだと思う。
呼び止める彼の声を無視して、急いで階段を降りると家の前で待機しているセンチュリーに乗り込む。ああ、エンジンかけて此処に居るってことはアイツは私が起き次第、仕事に戻らないとダメだったのかな。
涙で顔がボロボロの私を見慣れている運転手さんは、優しく──だけどドコか力強い笑みをバックミラー超しに見せてくれた。
「……神宮会の総本家まで」
「はい、かしこまりました」
いつもそう。
彼は何も事情を聴かないんだ、ただ優しい表情と聞き心地の良い声で荒れに荒れまくった私の心を少しだけ落ち着かせてくれる。
『ほらね、結局追いかけてきてくれないんでしょ』
──と出た、そんな意地悪な日本語も聞かぬフリをしてくれるんだ。