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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第17章 彼なりのケジメ

煙草のヤニで黄色くなっている病室の壁はきっと、元々な真っ白だったのだろう。

どこか『豪華さ』を醸し出したいであろう、この個室の入り口に飾られてある花でさえも、私の目には到底綺麗には映らなかった。

儚さが……足りないのかな。


細いチューブで懸命に命を繋いでいる、目すら開けない男を見つめていると不意に病室の扉が開いた。

「………。」


何度か見た顔だ。

思い出す間でもなく、あの時の思い出が直ぐに過った。


「よお、久しぶりだな。」

「痩せたわね。」


──元々細かったのに、今ではきっと彼の自慢であっただろう筋肉も削ぎ落とされて、あの時の"活気"とやらが一切無いように思える。

服も普段ならグッチやイヴ・サンローランを着ていたのに……今日はブランドのロゴ一つない真っ白で薄手のVネックだった。

彼らしくない、という言葉がよく似合う服装と顔相だ。


「そりゃ、兄貴が生死さ迷ってんだよ。普段みたいに飯も食えない。」

「………。」

いつもの馬鹿みたいな話し方ではなかった。きっと、かなり精神的に参ってる、私にそう思わせるほどの真面目で至って普通の語り口調。


そう、イヴァンは怒る事も取り乱すこともなく長い足を歩ませて、彼のベッドの隣に立った。

私が窓側で彼はドアに近い側。

二人の間でスヤスヤと眠るのは、この事件を──一番引っ掻き回してくれた張本人、コイツの唯一であるユンサ。


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