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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第5章 嫉妬か否か
皮独特の香りが車内を占める。乱暴に乗せられた後部座席はレクサスらしくとても広くて居心地が良い。
「あっ、場所はイデのカリ「もうセットした」
何で知ってるのよ、という疑問をまたも言えないまま車は急発進する。ハジンちゃんは慣れた手つきでシートベルトを締めていた。
流れるのはアメリカで流行っている女性ジャズシンガーのカバーアルバム。
へえ、意外だな。なんて思ったのもつかの間、こいつの事だったらセットする音楽さえも『ゲーム』を基準で考えてそうだ。なんていう考えが頭に浮かぶ。
「今は18時12分、多分飛ばしても道混んでると思うから着くのは40分とかになると思う。ったく、パン会長とサファイアさんとの飯なんでしょ?なんで忘れるワケ」
「……アンタらの事色々考えてたからでしょ」
「それでも普通は優先順位ってのが有るだろ」
「うるさいわね、私は貴方たちと違って仕事とプライベートを混同しない主義だし、第一仕事大好き人間だから常に全力なのよ。ったく、送ってるからって偉そうな事ばっかり言いやがって、このガキ」
「──帝国夫人がそんな言葉使いってか?」
バックミラー超しに私を見る彼の目は、いつしかの意地の悪そうな目に変わっていた。
すると突然流暢な英語で話し始める。
『俺達の本性は売れるための手段の一つとして流出したけど、アンタの本性が流出してサファイアや帝国は今より売れるのか?』
『確かに俺はガキだけど、まさかそれ以上に国民はアンタがそんな言葉使いで旦那の部下と話してるとは思わねえだろうな。そんなプレイボーイばかりの輪の中でマネージャーしてるとも』
流れるジャズが、憎く思えるほどに綺麗だった。
「あんたって最高にロックな人間ね」
精一杯の嫌味を聞いたイルトは、ははっと声に出して大きく笑う。