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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第2章 新たな企み
『ちょっとオンマ?分かったから、何度も同じこと言わないでよっ!』
丸々した頬を膨らませて、そんな憎まれ口を父親同様叩きながら仁川空港から出発する三人を見送ったのはもう三時間前になる。
あの日、深刻そうな顔で事を伝えた私の策略通りにはいかず──はあ、やっぱりこれが帝国の血、なんだろうか?
『ばあばとクリスタルと一緒?!』
『僕達大阪に住めるんだって!嬉しいね!』
『ママとパパと離れるの?うーん、そりゃ少し寂しいよ。でも日本語を学ぶのは楽しみだし、何より日本大好きだから平気なの!』
"留学"という意味を分かっていない様でしっかりと分かっている子ども達は、私の予想を裏切り泣きわめくことなく喜んでいたのだ。
それを見たテヒョンは、ざまあみろ。という様な顔をしていた。
ターミナルから手を振る時くらいに、現実に返って涙を見せてくれるかな?なんていう淡い期待は直ぐに砕け散り、私の脳裏に残ったのは彼達の心底楽しみにしている笑顔だった。
「はあ、何さっきからため息ばっかりついてんだよ。俺の飯も不味くなるわ。」
マスクを取って、帽子も取って……
すっかりとリラックスモードの旦那さんは、私たち家族行き着けのお粥屋さんで、いつも通り『豚キムチ粥』を食べている。
店主のおじさんは、私たちを構うことなくテレビに目を向けていた。
まあ、この空間が好きなんだけどね。これこそ、帝国夫人が通用しない場所ってやつなんだろう。
「まあ見てなさいよ、テヒョン。」
「何を?」
「あの子達はまだ子どもなの。その内、現実を見て──そうね一日に二回は電話してくるはずよ。特にテテなんか大のママっ子なのに。」
「はっ、まだそんな事言ってんのかよ。」
私の頼んだ中華風お粥に勝手にスプーンを入れて、モグモグと小動物の様に口を動かすテヒョンは、どうやら今日はもう仕事が無いらしい。
外しているネクタイが私に教えてくれている。
「何よ、そんな事って」
「あのなあ。」