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溢れる好きと君へのキス
第4章 ****
「あっ…片山さんじゃないですか!!」
「…失礼ですがどなたでしょうか」
「粉吹木ですよ!覚えていらっしゃるでしょう?」
旅行会社の本社に勤務している彼は雑誌の企画の当選商品のために来ているらしい。後ろに立っているのは看板女性雑誌「FOR U」の編集者だ。
「お知り合いですか?」
「はい!高校時代からの付き合いでして!」
「少し話していかれますか?」
「是非ともそうさせていただきたいです」
「では私はここで失礼させていただきます。本日はありがとうーーー」
全然私はよくない。
”大丈夫?とこっそり話かけてくれた藍ちゃんに“ごめんね、先戻ってて”と言って彼女を来たエレベーターに乗せた。彼女の顔を覚えられてはいけない、そんな気がした。一昨日まであんなに好きだったのにここまで変わるとは自分にびっくりする。
エレベーターから降りて来た相手はじりじりとエレベーターホール横にある階段へと詰め寄ってきた。この時間に階段を使うはもういないだろう。
「なんですか?」
「昨日帰ってこなかったじゃん」
「あんな家に帰りません、あなたに会いたくないんで」
「何が“あなた”だよ、悠太って呼べよ。ほんの数日までは呼んでただろ?」
「お引き取りください」
「なあ楓花」
「馴れ馴れしく呼ばないで!」
思わず大きな声が出て階段に響いた。空間に残る音は私の声だけで足音一つ聞こえない。
「昨日の服のままじゃん。帰れない時は買うとか前言ってたよな?昔アパレル目指してたお前が珍しい、ラブホか?」
「違います」
「誰か男の家泊まったのか?」
「違います」
粉吹木はニヤッとした。
「嘘だな、今の。長い付き合いだからわかるんだよ。なに新しい恋人?」
「違いますし泊まってません」
「元から付き合ってたの、そいつと?いいじゃん一緒だよ俺と」
「一緒にしないでよ、違うって言ってんでしょ?」
完全に向こうのペースで話が噛み合わない。
この調子で話していては業務に影響が出てしまう。エレベーターホールに戻ろうと粉吹木を通り越して背を向けると後ろから抱きつかれた。