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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白

その夜のことだった。
紳一郎は晩餐を父、公彦と摂っていた。
最近、公彦は頻繁に屋敷で晩餐を摂るようになった。
…十市とのことをやはり案じているのだろうか…。
公彦には別宅に落籍した元柳橋の芸者の愛人がいるはずだ。
そのひとに悪いな…と思いながら青豆のスープを口に運んでいると、公彦がやや改まった様子で口を開いた。
「…実は折り入ってお前に話があるのだ」
紳一郎は貌を上げた。
「…私の帝大時代の友人で、パリで美術商を営んでいる青山史郎という男がいてね。青山伯爵の末の弟なのだが、この度日本に帰国したのだ。
…ところが青山家は今、建て替えの最中でね。仮住まいは手狭らしく、彼には居心地が悪いらしい。
なにしろ彼の兄上のところには子どもが5人もいるらしく…。ずっと帝国ホテルに住んでいるのだよ」
…青山伯爵と言えば、皇室にも所縁がある名門貴族だ。
その青山史郎なる人物には会ったことはないが、兄の伯爵は夜会で挨拶したことがある。
如何にも名門貴族の当主といった威厳のある人物だった。
「そうですか。ずっとホテル住まいではご不自由なことでしょうね」
紳一郎はナプキンで唇を抑え、答えた。
すると公彦は眼鏡を繊細な指で押し上げながら、紳一郎を見る。
「そうなのだ。…それでなんだが…青山をこの屋敷に彼の家の建て替えが済むまで滞在させてやろうと思うのだが…紳一郎はどう思う?」
意外な提案に紳一郎は眼を見張った。
公彦は穏やかで物静かな人間だ。
人嫌いではないが、屋敷に友人を泊めたりすることは未だかつてなかった。
自分の友人を屋敷に招くことも稀だったのだ。
…父様はご自分が婿養子ということに遠慮されていたのかもしれない…。
紳一郎は申し訳なく思った。
公彦を安心させるように微笑む。
「父様のよろしいようになさって下さい。確かにずっとホテル住まいではお気の毒です」
公彦が眼を見張る。
「いいのか?」
紳一郎は微笑む。
「ご覧の通り、この屋敷は部屋が余りすぎるほど余っておりますからね」
東翼、西翼合わせて30近く部屋がある。
その大部分は使われずに家具は全て白い布が掛けられている。
下僕やメイドの数の方が多い屋敷だ。
彼らも久々に気が張る仕事が出来て、良いだろう。
「ありがとう、紳一郎。では早速青山に伝えるよ」
紳一郎は公彦の役に立てて、嬉しくなった。
「はい。よろしくお伝え下さい」
紳一郎は晩餐を父、公彦と摂っていた。
最近、公彦は頻繁に屋敷で晩餐を摂るようになった。
…十市とのことをやはり案じているのだろうか…。
公彦には別宅に落籍した元柳橋の芸者の愛人がいるはずだ。
そのひとに悪いな…と思いながら青豆のスープを口に運んでいると、公彦がやや改まった様子で口を開いた。
「…実は折り入ってお前に話があるのだ」
紳一郎は貌を上げた。
「…私の帝大時代の友人で、パリで美術商を営んでいる青山史郎という男がいてね。青山伯爵の末の弟なのだが、この度日本に帰国したのだ。
…ところが青山家は今、建て替えの最中でね。仮住まいは手狭らしく、彼には居心地が悪いらしい。
なにしろ彼の兄上のところには子どもが5人もいるらしく…。ずっと帝国ホテルに住んでいるのだよ」
…青山伯爵と言えば、皇室にも所縁がある名門貴族だ。
その青山史郎なる人物には会ったことはないが、兄の伯爵は夜会で挨拶したことがある。
如何にも名門貴族の当主といった威厳のある人物だった。
「そうですか。ずっとホテル住まいではご不自由なことでしょうね」
紳一郎はナプキンで唇を抑え、答えた。
すると公彦は眼鏡を繊細な指で押し上げながら、紳一郎を見る。
「そうなのだ。…それでなんだが…青山をこの屋敷に彼の家の建て替えが済むまで滞在させてやろうと思うのだが…紳一郎はどう思う?」
意外な提案に紳一郎は眼を見張った。
公彦は穏やかで物静かな人間だ。
人嫌いではないが、屋敷に友人を泊めたりすることは未だかつてなかった。
自分の友人を屋敷に招くことも稀だったのだ。
…父様はご自分が婿養子ということに遠慮されていたのかもしれない…。
紳一郎は申し訳なく思った。
公彦を安心させるように微笑む。
「父様のよろしいようになさって下さい。確かにずっとホテル住まいではお気の毒です」
公彦が眼を見張る。
「いいのか?」
紳一郎は微笑む。
「ご覧の通り、この屋敷は部屋が余りすぎるほど余っておりますからね」
東翼、西翼合わせて30近く部屋がある。
その大部分は使われずに家具は全て白い布が掛けられている。
下僕やメイドの数の方が多い屋敷だ。
彼らも久々に気が張る仕事が出来て、良いだろう。
「ありがとう、紳一郎。では早速青山に伝えるよ」
紳一郎は公彦の役に立てて、嬉しくなった。
「はい。よろしくお伝え下さい」

