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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白
午後の書斎で紳一郎の真摯な告白を聞いた父 公彦は溜息を吐きながらこめかみに指を当てた。
古典的な京雛のような典雅な貌が苦しげに歪む。
「…お前の言いたいことは良く分かった。…つまり…三年前のあの出来事は…十市とは無理強いではなく、合意の上だったのだな」
「はい。…父様には驚かせてしまって申し訳なかったですが、僕たちは愛しあっているのです」
チェスナットの椅子に座り、すっと背筋を伸ばした姿で紳一郎は公彦をじっと見つめたまま答えた。

公彦は改めて紳一郎を見た。
…驚くほどに美しい青年に育った…。
透き通るように白い肌、小作りな貌の目鼻立ちは人形のように整い、いかにも名門貴族の御曹司然とした優美な美貌と品格に溢れている。
やや神経質でひんやりとした美貌ではあるが、学業の成績も良く、馬術では毎回優秀な成績を収め、生徒会の執行メンバーにも選ばれ、星南学院の制服のジャケットの下に紫のベストを着た紳一郎には既に降るように縁談が来ていた。
名門華族の長男ということを差し引いても、それは紳一郎自身の魅力と努力の結果に他ならないだろう。

…私たちの歪んだ結婚の犠牲者であるはずなのに…この子は立派に育った。
公彦は、この血の繋がりのない息子に対して常日頃から複雑な思いを抱いていた。

公彦は名門公家の出身ということと、夜会などで紳一郎の母、蘭子と並んだ時に見劣りしない典雅な容姿と、明晰な頭脳を持っているということのみで、蘭子の夫に選ばれた。

…何よりも公彦が蘭子の…この鷹司家の婿に選ばれた理由は他にもあった。

急ぎの縁談話が仲人口からあり、略式の見合いが行われたのは、話を聞いた翌日であった。
なぜ、こんなに性急に見合いを急ぐのかとの疑問は鷹司家の豪奢なアールデコ様式の客間の椅子にしどけなく座る見合い相手…鷹司家の美貌の一人娘、蘭子を見て明らかになった。

…凡そ華族の令嬢が着るには余りに婀娜めいた色で相応しくない緋色に華々しい牡丹が描かれた京友禅の振り袖を身に付けた蘭子の腹部は明らかに膨らんでいた。

そのか細い少女のような身体に似つかわしくないほど膨れ上がった腹部を見て、公彦は驚きのあまり声も出なかった。

蒼白になる公彦に鷹司夫人 蕗子は嫣然と微笑み、いい放った。
「…もう来月は産み月なのです。…できるだけ早く蘭子と結婚していただけるかしら?公彦さん」




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