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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白
学院の門を潜り、石畳みの道を真っ直ぐ進み、蔦の絡まる煉瓦造りの礼拝堂へと急ぐ。
すると、紳一郎の肩を馴れ馴れしく抱く者がいた。
振り返ると見慣れた笑顔に出会い、紳一郎はふっと肩の力を抜く。
「…なんだ。伊勢谷か…」
同じクラスで、生徒会執行部のメンバーでもある伊勢谷夏彦だ。
細身だが、紳一郎より僅かに背が高い伊勢谷はいつも気がつくと紳一郎の肩を抱いたり、髪に触れたりと兎に角スキンシップが過剰なのだ。

「なんだとはご挨拶だな。おはよう、紳一郎。今日も綺麗だね」
ふざけた態度の友人に、無愛想に手を振り払う。
「触るな」
伊勢谷はその女にしてもいいような優し気な貌に、不思議そうな表情を浮かべた。
「随分とご機嫌斜めだな」
紳一郎は神経質そうに眉を上げた。
「…今日は触られたくないんだ」

伊勢谷が形の良い唇にやや揶揄うような笑みを浮かべ、ちらりと校門を振り返る。
「…青山さんに送って貰ったのか?」
伊勢谷の口から青山の名前が出たことに少し驚く。
「知っているのか?」
「もちろん。青山さんは社交界では有名人だからね。
パリで活躍する腕利きの美術商で、日本にある名高い美術館の所蔵品は、殆どが青山さんの買い付けによるものらしいよ。
…それに名門貴族の出身だし、あのスタイルとハンサムぶりと豪奢な雰囲気だ。…上流階級の人間で彼を知らない者は潜りだよ」
紳一郎は面白くなさそうに肩を竦める。
「じゃあ僕は潜りだな。…父様に紹介されるまで知らなかった」
「紳一郎はあの森番以外、どうでもいいんだろう?」
色めいた眼差しで矛先を向けられ、紳一郎は剣のある視線を返す。
伊勢谷はわざと恐々とした表情を作り、話題を逸らした。
「…で?あの世紀の伊達男、青山さんがなんで紳一郎を送ってきたの?」
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