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この前、人を拾いました
第55章 ⑥―5 10th Birthday
頭は良かったとは言え、まだ10歳だった彼のショックがどれだけのものだったのか、私には分からない。
茫然とする礼二。
そして乳母は、礼二が悪いのではなく、母は元々身体が弱かったことを懸命に説明したらしい。
だけど、そんな言葉礼二には聞こえていなかった。
礼二は虚ろな目をしたまま、何も言わずにゆっくりと家を出ていった。
それから先、礼二がどこで何をしたのかは誰も知らない。
きっと本人も目的は定めていなかったのかも……
夜になり、礼二の誕生日パーティーが近付いても、礼二が帰ってこないので、家中の人間が慌てはじめた。
どうせすぐに帰ってくるだろうと笑っていた父に、乳母が泣きながら、昼間の話をした。
「礼二さまに私は奥様のことをっ…」
誰も何も言えないまま立ち尽くした。
ただ、乳母がすみません、私のせいでと何度も言って泣きじゃくる声だけが響いていたのを、私は今でも忘れない。
そんなときだった。
ある召し使いが顔を真っ白にして、父にかけつけ
「礼二様が…礼二様が…!!」
と泣きわめき出した。