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この前、人を拾いました
第55章 ⑥―5 10th Birthday
「君、持ってきた花をいけてくれ。」
そばにいる執事に父は指図すると、執事はユリの花束を持って、礼二の後ろにある花瓶にいけた。
「ユリ…」
大きく花開いたユリをちらと見ると、礼二はぽつりと呟きながら父をじっと見つめた。
「あぁ、キレイだろう」
微笑む父。
フワッとユリの香りが鼻を掠めた。
「お母様が好きだった花……」
え?
母が好きだった花……?
礼二の言葉を聞いて、執事を含めて、その場みんなの動きが止まった。
母はユリが好きだったのか?
微かにしか母を覚えていない私には、そんな記憶はなかった。
なのに、どうして全く母を知らない礼二はそんなことを言い出すのだろうか。
誰かが教えた……?
チラと父の方を見ると、びっくりした様子で大きく目を見開いていた。
「礼二…確かに君の母はユリが好きだったが…どうしてそれを知っているんだ…?誰から聞いたんだ…?」
動揺を隠せない父に礼二はとても落ち着いた表情を見せていた。
そして、だって…と言葉を続けて、父の瞳をじっと見つめた。
「───ユリをいっぱいに抱えて笑っている…」