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愛されたいから…
第11章 南郷の思い
そんなダメな俺にごく自然に南郷さんは

『今帰ったところだ。イルマは?』

と言って来る。

『俺はずっと自宅ですから。藤森先生の2話の原稿はは一応半分まで出来てますよ。明日はベータと打ち合わせで…。』

とそんなたわいない事を南郷さんに説明して俺はなんとか南郷さんとの会話を繋げようとしてしまう。

貴方の声が聞きたいから…、貴方に会いたいから…、俺がこんな俺のままでもいいんだと思いたいから…

そう心で呟く言葉を南郷さんには伝える事が出来ないまま、俺は出来るだけ普通を装って南郷さんと話しを続けていた。そんなくだらない電話での会話の最後には南郷さんが

『週末は…、イルマの夕食を期待してる。』

と俺に言ってくれていた。たったそれだけの一言なのに自分が必要とされている嬉しさや、南郷さんみたいにカッコいい男に愛されていると感じる自分にほんの僅かだけれども優越感が込み上げて来て俺の惨めなコンプレックスが消えていく。

『任せて下さい。おやすみなさい。』

そう言って俺はそんな自分に満足をしてから南郷さんとの電話を切る。わずか10分程度の電話で俺はスッキリした気分になって風呂に入って眠っていた。

南郷さんに会う前の俺はこんな風に恋愛をする事すら怖かった。また恋愛に失敗して傷つくくらいなら…、と思い込んでしまった俺はこんな俺に慣れていて俺には優しいだけの大地やリッちゃんとふざけるだけの毎日でいいとか思っていた。

ダメな自分のコンプレックスに1人で馬鹿みたいにウジウジとして、いじけているだけの毎日で良かったのに、今の俺は南郷さんと恋愛をして自分をもっと好きになれる自分になりたかった。

彼と出会えて良かった…

ただ俺は彼に愛されたいと思い、彼が望むような俺に少しずつでも変わって行きたいと思う事が今の俺の一番の幸せな願い事だった。

だから生まれて初めての俺の本気の恋愛にその時の俺はまだ、自分のそんな子供地味た考え方が間違っているとか全く気付かないダメな男のままだった。
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