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愛されたいから…
第12章 イルマと南郷
設定としてはハッピーエンドの話しなのに、とても静かに恋人と結ばれる穏やかな終わり方をする地味なストーリー、だけど読んだ人間の心を熱くさせて、こんな恋愛を自分もしてみたいと思わせるだけの力がある作品。

まさに天才の作品だった。だけど、やっぱり控え目で自信なさげなこの漫画に作者は間違いなく猫と月の如月 イルマだと俺は確信をしてしまう。

有名な大先生の子だから、王道にしか描かない漫画家だろうと思っていた俺は密かに如月 るいのファンになっていた。

自分の担当する官能漫画の編集部では如月先生と会う事はない。そう思って如月先生の作品が掲載される時だけ、俺はその少女漫画雑誌を購入していた。

だけど、読み切りは良いのだが連載はグダグダな如月先生にやはり猫と月の時と変わっていないんだと俺は感じてしまう。

いつまでも前に進まずに立ち止まったままの漫画家。和也が一つの事を始めるとそこから動こうとはしない天才だったから俺は天才とはそういうものなのかと思ってしまう。

そして俺と初めて出会った時のイルマはとにかくキョロキョロオドオドとして妙に落ち着きがなく、俺が何か一言を言っただけで、ただでさえ小さな身体を更に小さくして俯いてしまうような子だった。

イルマは和也のように天才だ。和也はその自分の天才を理解しているから甘やかされて我儘な男だった。

だけどイルマはその自分の天才を自分自身で認める事が出来ず、和也と同じように愛されて甘やかされて育っているから、その与えられた幸せな自分のエリアからいつまで経っても出ようとはしない。

だからイルマの方から俺に我儘を言って何かを求めるとかは絶対にして来ない。

初めてイルマが激しい一面を俺に見せて俺が欲しいと求めた時は俺の言葉に勘違いして、俺がイルマを遊び相手にしていると思い込んだ時だった。

その時もイルマは激しく俺を求めたくせに、ただ静かに俺の腕の中で泣くだけしか出来ないイルマだった。そしてそれは2度とイルマを泣かさないと俺に思わせるイルマだった。

いつも不安そうに俺を切ない顔で見上げるイルマ。俺が欲しいと素直に言えずに俺の気持ちを知りたいと泣きそうな顔で俺を見るイルマ。

だから俺はイルマにキスをして俺はイルマと居るんだとイルマに教えてやる。俺がキスした瞬間だけはイルマは幸せそうな笑顔になる。
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