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愛されたいから…
第14章 イルマの初体験
しばらくしてから俺から離れたリッちゃんがいつものように笑顔になって俺に

『今日は泊めてね♡』

と言ったけど、前のように俺と同じベッドじゃなく客室にあるアシスタント用のベッドにという意味でリッちゃんが久しぶりに泊まっていた。それはリッちゃんの俺に対するケジメなんだと俺は感じてしまった。

その週末には藤森先生の2話分の原稿は仕上がり、坂口さんからも俺の3話分のネームに対してOKが出ていたから俺は何かとバタバタとしていた。

とりあえず、俺は南郷さんに電話をして

『今月の分はもう仕上がりました。来月分はまだ半分ですけど…。』

と伝えると南郷さんは

『なら明日にでも原稿を取りに伺いますよ。』

と嬉しそうに俺に言う。何故なら明日はもう土曜日だからだ。そのまま南郷さんは俺とラブラブモードに入る気満々なのがなんとなく俺にはわかるから俺は

『いえ、そろそろ〆切前で編集部はお忙しいでしょうから俺から編集部に持って上がりますよ。』

と南郷さんに言い返す。仕事は仕事、恋愛は恋愛、俺だってリッちゃんみたいにそういう割り切りとかケジメを覚えなければ俺はいつまでもダメな子供のままになる。

南郷さんが少し小さな声で

『俺が行くと困るのか?』

と俺に不機嫌に聞いて来る。南郷 龍平はヤキモチ焼きの俺の最愛の恋人だ。俺は普通に

『仕事は仕事だよ…、龍平さん♡』

とリッちゃんの真似をして言ってみる。俺が名前を呼ぶ時は俺の我儘を聞く約束だ。だから南郷さんは

『はぁ…、わかりました。お待ちしております。』

とため息混じりに電話を切っていた。ちゃんと、出版社に原稿を届けたら、その後は南郷さんの家に行って俺は漫画家先生ではなく南郷さんだけの如月 イルマになるつもりだ。

電話を切った俺にリッちゃんが

『週明けまで私はお休み?』

と聞いて来る。俺は

『労働基準法に反する事は出来ないからな。』

とリッちゃんに冗談を言ってやる。漫画家とアシスタントの仕事に労働基準法なんか全く意味がない。一番重要なのは〆切厳守だからだ。

そして南郷さんの出版社はこの週明けには〆切が待っている。多分、南郷さんも週末とはいえ、まともに帰っては来れないだろうし、きっと帰って来たとしても仕事を抱えているはずだ。
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