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愛されたいから…
第16章 イルマの価値観
仕事部屋で1人になった俺はカラー表紙のイメージを考える。真っ白な原稿用紙の上に鉛筆で薄く主人公の形だけを描き、主人公の後ろにデザイナー、主人公に膝まづく彼氏をイメージする。

デザイナーに作り上げられる淫魔な少女に翻弄されて屈する男の図って感じが俺のイメージだ。こういう時の俺は幻想的な世界に引きずられる。

自分の頭の中に色々な色や形が湧いて来て、俺の手が勝手にそれをまとめようと紙の上に線を描き始め、始めはほとんど見えない薄い線なのだけれど、少しずつ形がまとまって来るとそれが決定したような濃い線に勝手に変わっていく。

そんな時は俺が描いているという感覚は全くなく、俺のイメージそのものが俺の意思とは関係なく描き出されるという感覚を俺はいつも感じていた。それは南郷さんに抱かれている感覚にも少し似ていて、その感覚に俺は気持ち良くて自分自身を委ねてしまう。

ただ、ぼんやりと頭に浮かぶイメージだけを描いていた俺に

『キャー、如月先生、久しぶり~。南郷さんから聞きました?カラーになるんですって、全部先生のお陰だわぁ。』

と違和感のある声が聞こえて俺は現実的な世界に引き戻される。

『お久しぶりです、藤森先生、1位おめでとうございます。』

と俺は藤森先生に頭を下げていた。藤森先生の隣には俺の知らない男の人が立っていて

『お邪魔します。』

と俺に緊張した顔で言っていた。

ごく普通のサラリーマンに見える優しそうな男の人の腕に綺麗な顔だけど厳つい系お兄さんな藤森先生が絡み付き

『私の今の彼氏、南郷さんみたいなイケメンさんじゃないけど…、凄く優しくていい男なの。』

と嬉しそうに藤森先生が俺に言う。藤森先生の彼氏だという男の人はかなり真っ赤な顔をして照れたように

『ちゃんと仕事しないと如月先生にご迷惑だよ。』

と藤森先生を優しく叱っていた。自分の事をそうやって堂々と胸を張って生きている藤森先生には俺は尊敬してしまう。俺は藤森先生に

『次号で巻頭カラーになる4ページのネームは描き直しますか?』

と聞いてみる。藤森先生は

『南郷さんともそれは話したけど、私、カラー用のネームとかよくわからないのよね…。あのネームをそのままカラーに出来るかしら?』

と不安気に俺に聞いて来る。
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