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愛されたいから…
第2章 イルマの思い
小さい頃からそうだった。俺は嫌いな食べ物は絶対に手を出さないという子供だった。親父は一応俺に好き嫌いをせずに何でも食えとか言って来るが俺を溺愛していたお袋は

『無理して食べなくても大人になればちゃんと食べれるようになるから大丈夫。』

と常にそんな俺を甘やかしてくれていた。お袋が言うように確かに俺が大人になってからは嫌いだったレタスが普通に食べれるようにはなっていたが、そうやって食生活だけでなく物事に対しても俺は常に後回しにして逃げる癖がついてしまっていた。

とりあえず帰ってあのシーンをどうするかを考えなければ…

そう思っていた俺の携帯が鳴っていた。着信は南郷さんからだ。なんとなく俺は嬉しくてはしゃぐように電話に出ていた。

『今から時間があるので伺っていいですか?』

とあの声で南郷さんが言って来る。俺は出来るだけ自分の気持ちを落ち着かせてから

『今は外ですが後15分くらいで帰る予定なのでお待ちしています。』

と南郷さんに答えていた。俺の馬鹿な頭の中ではダッシュで帰ってちょっとは部屋を片付けなければ…、とかそんな考えだけでいっぱいになる。

別に俺は普段からそんなに散らかしている方じゃないのだけど、やはり南郷さんが来るとか考えると少しはそういうのが気になってしまう。

急ぎ足で5分で家に帰ってから、溜まった洗濯物を洗濯機に隠すように放り込み、買って来た食材を冷蔵庫に入れて、仕事部屋に今回の仕事で散らかしたスケッチブックやらなんやらを片付ける。

大体片付けが終わった頃にインターホンが鳴って南郷さんが俺の部屋に来ていた。俺はただ南郷さんの姿をリアルに見ただけでまたしても胸が熱くなってドキドキして来ていた。

憧れの先輩を見た時の女子高生の気持ちって今の俺みたいな気持ちになるのかな?

そう思って俺は玄関の下駄箱に付いている鏡で自分の顔をチラリと見てしまう。

女の子のような情けない顔の男が頬を紅潮させてだらしなく口を少し開けているのが見えていた。だが、俺がイメージする欲情している顔というには少し違う気もしてしまう。

『先生?』

と不審な動きをする俺に南郷さんが俺の身体を突き抜けるバリトンボイスで聞いて来る。我に返って俺は

『コーヒーでも飲みますか?』

と取って付けたように南郷さんに聞いていた。
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