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愛されたいから…
第2章 イルマの思い
やばい…、やばいから…

完全に俺の頭の中はパニックでどうしていいかわからなくなっていた。なのに南郷さんの手が突然俺の頬に優しく触れて俺の顔を軽く持ち上げて来た。

俺の目の前にはモロに南郷さんの顔があり、ほんの少し今の俺が背伸びをすれば南郷さんにキスが出来そうなこの距離に俺は南郷さんにこのままどさくさでキスしたいという衝動に駆られて来る。そして…

『今のイルマのその顔が欲情するって顔に一番近いと思う。』

と南郷さんに言われて俺は我に返っていた。

今、俺は南郷さんに欲情したのか!?

俺はそう叫びそうになり、自分の馬鹿さ加減に混乱してますますパニックになっていた。

すぐに俺は慌てて南郷さんの手から逃れるように後さずり、自分の熱くなった顔を南郷さんに向ける事が出来なくなっていた。

またしてもクスッと南郷さんの笑い声が俺に聞こえて来た。ダメだ…、完全に俺は男に欲情した顔をする変な奴と思われている。

恥ずかしさと自己嫌悪に凹みたくなる俺に南郷さんが

『描けそうですか?』

と落ち着いた声で聞いて来る。俺は慌てて泣きそうになる自分を堪えて

『大丈夫です。』

と答えていた。しばらく俺を真っ直ぐに見つめていた南郷さんが

『さっきの顔は他の奴には絶対に見せたくないって顔だな。』

と独り言のように言っていた。その言葉に再び俺の顔が熱くなり

他の奴どころか俺は貴方にもこんな顔は見せたくないよ!

そう叫びたくなっていた。そんな俺に構わず南郷さんは

『とりあえず、鍵はお預かりしましたから、時間がある限りはまた寄らせていただきます。とにかく残りページ分頑張って下さい。』

と普通に編集さんの笑顔でそう言ってから俺の仕事部屋から立ち去っていた。呆然としたまま、取り残された俺が冷静になりさっきの状況を理解出来るのにはたっぷり30分はかかっていた。そして俺は

『俺は一体、何を南郷さんに見せたんだ!?』

と再びパニックになってしまっていた。

欲情した顔を男の俺が男の南郷さんに見せたとか有り得ない話だろ!?

コンプレックス以前にとんでもない事をやってしまったという自分に完全に俺は凹んでいた。
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