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愛されたいから…
第9章 藤森の作品
俺が南郷さんから受け取ったネームを見ていると5分もせずに上着と荷物を持った南郷さんが戻って来て

『行きましょう。』

と俺を促して来た。結局、俺は入れて貰ったコーヒーもろくに飲まずに立ち上がり、南郷さんに連れられてエレベーターに乗っていた。エレベーターに乗ってからはやっと2人きりだから俺は南郷さんに

『どこ行くの?』

と普通に聞いてみる。南郷さんはやっといつもの笑顔で

『連休明けには食事に行くって言ってあったろ?』

と俺に言って来た。

つまりこれは仕事の打ち合わせという名目で俺は南郷さんとデートだ♪

そんな風に単純に俺は浮かれて喜んでしまった。だがその喜びも束の間で南郷さんが出版社を出て駅前に向かって歩きながら

『新宿の方に行きますから。』

と俺に言って来る。俺はその南郷さんの言葉を聞いて一瞬で、うげっ!?となってしまう。何故なら今はラッシュ時間のしかも新宿に向かうとか俺の一番苦手な電車時間帯だ。

俺が露骨に嫌な顔をしたから南郷さんは驚くように

『嫌なのか?』

と聞いて来る。俺は

『痴漢がいなければ…、平気ですけど…。』

と情けなく南郷さんに言ってみる。南郷さんは

『俺が居るから大丈夫だろ?』

と俺の頭をくしゃくしゃと撫でて笑っていた。

約束通りに混雑した電車の中では南郷さんが小さな俺を抱えるように立ってくれる。南郷さんと一緒なら俺はラッシュの電車にもちゃんと乗れるんだとか少し俺が安心した瞬間、俺の尻を誰かが触っていた。

しかも俺の尻の膨らみに沿うように太股の付け根のラインをサワサワと指が這うというかなり性的に露骨な触り方を俺はされている。

『な…、南郷さん…。』

と泣きそうな顔した俺に、俺の耳元で南郷さんが

『俺が触りたいんだよ。』

とか言って来る。その言葉に一気に俺の顔が熱くなるのがわかってしまう。

どさくさに紛れて南郷さんが俺に痴漢してるとか!?

よりによって南郷さんに変な気分にさせられそうになっている俺は

『何考えてんですか!?』

となるけれど、そんな俺にクスクスと笑うだけの南郷さんだった。

この人…、意外と子供でタチが悪い…

少し腹が立つけど…、少し嬉しい気持ちになる。それは南郷さんが俺には甘えてふざけてくれていると感じるからだ。リッちゃんが俺の前ではタチの悪い子供みたいに振る舞うのと同じだ。
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