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八重の思いー私を愛した2人の彼氏
第11章 忍び寄る過去の影-千弥の決断
定時前までに課長に退職届を提出し、本当に必要な私物だけを纏めて会社から出た。課長は『保留にしたい』と言っていたけれど、九鬼が関わった以上、私はこの会社に戻る気は一切無いの。
(職探し……だよね。アルバイトでも良いから見つけなきゃ)
最後になるであろう、葉桜になった木々を見つめながら、これからどう生活しようと思う。暫くは貯金で済むけど、あのマンションに住む共同分の金額となると、半年も保たないと考えられるから、早いうちに次の仕事は見つけたい。
「やっと落ち着いた生活が出来るようになったのに、どうして邪魔するのよ」
地元から離れてまで、九鬼と縁が切れた生活を送ろうとしていたのに、世の中って理不尽だよね。それとも私には幸せになる権利は無いの? 一度堕ちてしまったら、二度と抜け出すことは出来ないの?
(……そんなの嫌……)
私だって幸せになりたい、そのきっかけを蓮さんと陸さんがくれたのに、運命はまた私を闇の中に落とす気でいるみたい。
「……ダメ。帰って薬を飲まないと、また籠る私に戻ってしまう」
頼るのは止めたのに、私はまた薬に頼ろうとしている。そうしないと私の心が保たないから、薬で誤魔化そうとしていることくらい、自分だって分かっているよ。それでも安定が欲しい、薬で楽になりたいという思いが強く、今の私では我慢出来そうにないの。
足早にバス停に向かい、いつもより1本早いバスに乗って、唯一安心出来るマンションへと急ぐ。