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この香りで……。
第26章 提案
 奈々葉はぼんやりと目を開いた。
 
 ――ああ、私……。
 
 耳を済ませる。
 
 チ、チ、チ、チという時計が秒を刻む音が奈々葉の頭の奥で反響していた。
 
 毛足の短い毛布が掛けられていた。
 
 腕が重い。奈々葉は自分の身体に触れた。下腹にある柔らかな茂みが汗ばんでいた。
 
 ――え、私、は、裸……。
 
 トクッ……。内ももに生温かいモノが溢れだす。指先でそこを探った。自分の鼻に指をかざす。指先に青草のような匂いの白い粘液が絡み付いている。
 
 ――ああ、私、部長と……。あの時……。

 菜々葉の頬が熱い。
 
 コーヒーを入れる匂いと、ポコポコとサイホンにコーヒーが吸い込まれる音がどこかからした。
 
 スッとベッドルームのドアが開いた。
 
「おう、目が覚めたか? それにしてもお前……」
 
 里井が意味ありげな笑みを浮かべた。
 
「なんで笑うんですか? えっ、なんですか?」
 
「お前さあ、……」と里井が言ったあと、「お前、感じやすいのな」と奈々葉の耳元で囁いた。
 
「きゃっ、部長ぉ、恥ずかしい」
 
 耳たぶが赤くなるのが分かる。
 
「だけど……ウレシイもんだよ。男は……、俺はまた悦ばせてあげようと思うんだ」
 
「嬉しい。私、あんなに優しいセックスは初めて……」
 
 奈々葉は自分の胸に手のひらを当てた。
 
「……ああ、俺もかも知んないなあ。あんな大人のセックス。またしようぜ」
 
 里井の無表情な目が少年のように笑った。
 
「もう、ヘンタイっ、部長のバカ……」
 
 ちゅっ……。
 
 奈々葉の額に里井の固い唇が落ちた。

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