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この香りで……。
第4章 慰め
深夜、奈々葉はドレッサーの前に座っていた。夫の信也はもう寝息を立てている。

 唇を見る。

 つるんと厚ぼったい唇。奈々葉は自分の唇を指でたどる。

 自分の顔をじっくり見るなんて結婚して以来なかったような気がした。

 唇と肩に里井の温もりが残っているような気がした。

 ――たしかに、私、ときめいてた。里井部長に……。

 耳たぶに熱を帯びる。ピンク色に染まった色白の頬が鏡に映っている。

「まさか、私……」

と、自分を否定する。
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