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この香りで……。
第12章 口紅
「なーんだ、奈々葉、早いね?」
「……あ、ああ……うん……美希も……」
子犬のような目が奈々葉を見た。その目が部長室の前に立つ里井の方に動く。
里井は指を通して髪を整えている。
「奈々葉……」
美希が自分のショルダーバッグの中から何やら取り出して、奈々葉に手渡した。
「タオルハンカチ……?」
「奈々葉、ここ、ここ……」
美希が表情もなく自分の口元を指差す。彼女自身の唇の周りを指でなぞる。
「えっ……」
奈々葉も手のひらで、自分の口元に手をかざした。