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この香りで……。
第17章 揺れる
寝室を開けるのが怖かった。里井との行為に後ろめたさもあるのかも知れない、と感じた。
「お帰り……朝ごはん、作ったけど、先にシャワーにするかな?」
信也の笑顔には曇りがなかった。心の奥で胸を撫で下ろす。
「ありがと……じゃあ、ご飯にする」
――信也さんは私を疑ってないの?
いや……疑ってるかも……。
何で香水をつけ始めたの……とか……。
浮気……。
不倫……。
ダメだ……私……。
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♫♪♪〜〜♪♪♫
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奈々葉はスマホの着信音に呼ばれた。そのスクリーンを軽くタップする。待受のキャラクターの吹き出しの『新着メールがあります』と書かれた場所を軽くタップすると、『里井部長』の文字が浮かび上がった。
奈々葉の脳裏にエルグランドで聞いた電子音が再生される。
胸が高鳴る。
信也を目の端で見る。スーツとシャツにネクタイを合わせて出掛ける支度をしている。いつもと同じ光景……。
奈々葉はアドレス帳を呼び出して、『里井部長』の文字を『里井エリ』に打ち直した。信也を気にしながら。もちろん、奈々葉の友人にも里井エリという名前など存在しないが……。
『無題
里井です。まだ寝てるかな?昨夜はお疲れさま。私は少し早く出社します』
絵文字も改行もない文字だけのメールは荒々しい里井のイメージとはかけ離れていた。
――ふふふ……なんだかカワイイ……。
奈々葉の頬が緩む。
『Re:
じゃあ私も少し早く出社しますね』
奈々葉にとって、こんなに短いメールを送るのは初めてだ。