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この香りで……。
第18章 夢のあとに……。
数時間後、里井は目を覚ました。入院患者用の寝間着からは点滴の管が数本、その鼻には酸素吸入用の管と赤青のコードが心臓モニターに繋がっている。
里井の目が動く。
奈々葉は里井の顔を覗き込んだ。
「おお…………宮崎、俺……」
里井は自分の腕を曲げて、腕から見える管を見た。
「病院です。ゆっくりして下さいね……」
「俺、すぐ戻らねぇと……車、準備してくれ……」
里井の手が点滴の管に伸びる。プツッっと音を立てて点滴の管が外れて、奈々葉に薬液の飛沫が散る。心臓モニターの上のランプが緑から赤色に変わる。
「死んじゃいます、無理したら……」
「けど……俺がみんなを守らねえと……、命がけで守らねえと……」
里井が身体を起こして、ベッドサイドに腰掛けた。
パチンという音が病室に響いた。
「たッ!」という里井の頬が波打つ。
「ご……ごめんなさい」
「痛えな! 何するんだよ!」
手のひらが熱かった。人の顔を叩くことなど、生まれて初めてだ。痛さのあとに痺れのような感じが手のひらに広がる。
「ダメっ! 部長は死んだらダメ! 悲しむ……、私が悲しいから……」
滲んで、里井の顔が見えなくなる。奈々葉の頬を涙が滑るのが分かる。唇を噛んだ。
里井は「ばかやろう……」とナースコールを押して、布団に潜り込んだ。
「今、みんなが頑張ってくれてますから……ね?」
奈々葉は里井の大きな手を包んだ。冷たい手を……。
「どうかしましたか?」とパタパタと数名の看護師たちが里井の部屋に駆けつけた。