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この香りで……。
第19章 爪
コンコン……。病室のドアをノックする音がした。
「里井さん、朝ごはんですよ」
ベッドに据え付けの簡易テーブルをセットして、若い看護師が朝食を載せたトレーを置いていった。
「……あ、ありがとうございます。……はい、部長……」
奈々葉が牛乳のテトラパックにストローを刺して、里井に手渡す。
「サンキュ……、ああ、出ねえかな。ブラックコーヒー……」
ジュージューと里井は喉を鳴らしてそれを飲み干してゆく。紙のテトラパックが潰れるように小さくなる。
「ふふふ……」
――かわいい……。
「元気になったら、またコーヒー飲みましょうね。私、淹れますから……」
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午前9時。奈々葉のスマホのバイブが鳴った。そこに『○☓情報サービス 社長室』という文字が浮かび上がる。里井に背を向けて、そのスクリーンをタップする。
「はい…………お疲れさまです…………あ……はい……分かりました……ありがとう……ございました……」
電話はすぐ切れた。
奈々葉の唇が大きく息を吐いた。
「……専務から……でした……」
「……解決……したのか?」
「はい……」
「じゃあ、お前は帰れ……家へ……」
「……えっ……でも…………」
「困るんだ……俺、お前が倒れると……な?」
里井の大きな手のひらに頭を包み込まれ、奈々葉は思わず首をすくめた。
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