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この香りで……。
第20章 寝室
 動けなかった。足裏が床に張り付いたように……。大声で怒鳴ろうするが、声が出ない。身体の空気を抜かれたようで……。

「ふう……信也、激し過ぎるよお……私、まだ、ドキドキしてるよお……」とピンク色に染まった肌の美希が熱く囁く。

 寝室の空気に青い匂いと、甘く酸味のある匂いが混じる。男と女が交わったあとの匂い……。

「汚しちゃったね」

 唇でジュルジュルと汚れを啜っているのか、信也はM字のように開いた美希の両脚の間に顔を埋めているように見えた。犬のグルーミングにも似ている。びちゃびちゃという水音がエアコンのモーター音に混じる。

 背筋に悪寒を感じる。

「ふふふ……私のネイルと同じだ……ああっ、そこキモチ……」

 美希の腰がピクリと跳ねる。

「え……? 」

「白いのが信也の精子、でピンク色が私のアソコ、小さな珠がクリ☓☓ス……友達のサロンで、私、自分でデザインしたのよ。ほら……ね?」と美希が自分の指を見せる。

「ホントだ。エロい……でもさ、美希って昔からそうだよね? 人を驚かす天才……」と言った信也は再び美希の股間に顔を埋める。

 ――昔から……?

「ふふふ……そうかな?」




 バサっ!

 奈々葉が手にしていたバッグを床に落としたのだ。

「えっ……?」

 静かだった寝室がバタバタとざわつく。

 奈々葉は這うように玄関を飛び出した。
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