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秘密のピアノレッスン
第11章 大事なもの

「ママ、ただいま帰りました」
玄関のドアを開けると、母がちょうどブーツを脱いでいるところだった。
タイトなワンピースに、いつもより赤い口紅。いつもより……雌のように思えたのは、気のせいだろうか。
「やだ、更紗……。いたの?」
母の瞳に、動揺の色が見えた気がした。しかし、それは一瞬で消え、いつもの冷酷な瞳に戻った。
私も、制靴を脱ぎ揃えて家に上がる。
「思ったより早い帰りね。これから夕食の支度をするから、部屋で過ごしていなさい」
「ピアノを弾きます」
「それでもいいわ」
母の髪から香る、いつもと違う香水。
くまのブレスレットを握りしめる私の手のひらが、じっとりと汗ばんでいた。
ドキドキするけれど、大丈夫。
私には、先生がいる。
私は、もう一人じゃない。
そう言い聞かせながらも、母への疑いは色濃くなる一方だった。
玄関のドアを開けると、母がちょうどブーツを脱いでいるところだった。
タイトなワンピースに、いつもより赤い口紅。いつもより……雌のように思えたのは、気のせいだろうか。
「やだ、更紗……。いたの?」
母の瞳に、動揺の色が見えた気がした。しかし、それは一瞬で消え、いつもの冷酷な瞳に戻った。
私も、制靴を脱ぎ揃えて家に上がる。
「思ったより早い帰りね。これから夕食の支度をするから、部屋で過ごしていなさい」
「ピアノを弾きます」
「それでもいいわ」
母の髪から香る、いつもと違う香水。
くまのブレスレットを握りしめる私の手のひらが、じっとりと汗ばんでいた。
ドキドキするけれど、大丈夫。
私には、先生がいる。
私は、もう一人じゃない。
そう言い聞かせながらも、母への疑いは色濃くなる一方だった。

