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秘密のピアノレッスン
第17章 本当の私

「滝本さん……怪我したの?」
「あ、はい……」
担任の涌井先生から声を掛けられた。古文担当の、40代の女性だ。
「一体どうして……」
「あの、転んじゃったんです。家で……」
「そうなの……?」
何を言っても、涌井先生の瞳には疑惑が孕んでいる。それだけ怪しく見える怪我なのだろうか。
母がいなくなったことや、私が男性の家に転がり込んでいることがバレてしまったらと考えると、気が気ではない。
「し、失礼します」
慌ててその場を去り、休み時間は本を読んでひっそりとやり過ごす。
来週になれば自由登校になる。
……本当は、学校なんて来たくない。
大学も行きたくない。教師にもなりたくない。
ママなんて大嫌い。
帰ってこないパパだって、嫌い。
助けてくれないおばあちゃまだって、見て見ぬ振りするクラスメイトだって、ママに会いに来る黒い車の男の人だって、みんな嫌い。
普通なら、母がいなくなれば心配するのだろう。
昨日までは心配もわずかにあったけれど、今は母がいなくなって清々している。
どうせ今頃好き勝手しているだろう。
そんな人だという事は、私が一番知っているのだ。
母がいなくなったことがバレたら、先生といられなくなる。
それを死守したくて、したたかに母を心配しているふりをして……。
手紙に書いた最後の文章。
母に読んでもらいたかったのに……残念だ。
「あ、はい……」
担任の涌井先生から声を掛けられた。古文担当の、40代の女性だ。
「一体どうして……」
「あの、転んじゃったんです。家で……」
「そうなの……?」
何を言っても、涌井先生の瞳には疑惑が孕んでいる。それだけ怪しく見える怪我なのだろうか。
母がいなくなったことや、私が男性の家に転がり込んでいることがバレてしまったらと考えると、気が気ではない。
「し、失礼します」
慌ててその場を去り、休み時間は本を読んでひっそりとやり過ごす。
来週になれば自由登校になる。
……本当は、学校なんて来たくない。
大学も行きたくない。教師にもなりたくない。
ママなんて大嫌い。
帰ってこないパパだって、嫌い。
助けてくれないおばあちゃまだって、見て見ぬ振りするクラスメイトだって、ママに会いに来る黒い車の男の人だって、みんな嫌い。
普通なら、母がいなくなれば心配するのだろう。
昨日までは心配もわずかにあったけれど、今は母がいなくなって清々している。
どうせ今頃好き勝手しているだろう。
そんな人だという事は、私が一番知っているのだ。
母がいなくなったことがバレたら、先生といられなくなる。
それを死守したくて、したたかに母を心配しているふりをして……。
手紙に書いた最後の文章。
母に読んでもらいたかったのに……残念だ。

