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秘密のピアノレッスン
第18章 見えていなかったもの
関門のように立ちはだかる大きく、重いドアを開けた。その瞬間、パアッと照明がついた。
「更紗さま?……」
見回りに来たお手伝いさんが、部屋から出てきて、咄嗟に嘘を吐く。
「ちょっと、散歩してきますっ」
からからに乾いた喉でそれだけを言うと、とにかく、振り向かないで走り出した。
レッスンバッグを握り締めて、閑静な夜道を、ひたすらに走る。
走って、走って、……先生のマンションに来たけれど、部屋の灯りは確認できない。
佳苗先生の家にいるのかもしれない……。
全速力で走った分、息が上がってその場に座り込んだ。マンションの植え込みに腰掛け、しばらく息を整える。
こんなに走ったのって、いつ以来だろうか。
星の散らばる夜空と、煉瓦造りのマンションを見上げ、冷たい冬風に身を竦める。
逃げ出したって何も解決しないけれど、逃げ出すしか術がないことが悲しくて悲しくて、涙が止まらない。
「寒い……」
このままここにいたら、凍えてしまう。でも、どこに行けば……。
ふらりと立ち上がり、涙を拭いながら夜道を歩き出した。
佳苗先生のおうちに戻れば、きっと佳苗先生たちに迷惑が掛かる。家に戻れば、ママと黒い車の人がいるかもしれない。
結局、おばあちゃまの家に戻ることしかできない……。
結局私は、一人で生活することもできない。先生がいなければ、何もできない。
その先生も、電話に出てくれない。
こんな風に、中途半端に家出をするぐらいしか。
「更紗さま?……」
見回りに来たお手伝いさんが、部屋から出てきて、咄嗟に嘘を吐く。
「ちょっと、散歩してきますっ」
からからに乾いた喉でそれだけを言うと、とにかく、振り向かないで走り出した。
レッスンバッグを握り締めて、閑静な夜道を、ひたすらに走る。
走って、走って、……先生のマンションに来たけれど、部屋の灯りは確認できない。
佳苗先生の家にいるのかもしれない……。
全速力で走った分、息が上がってその場に座り込んだ。マンションの植え込みに腰掛け、しばらく息を整える。
こんなに走ったのって、いつ以来だろうか。
星の散らばる夜空と、煉瓦造りのマンションを見上げ、冷たい冬風に身を竦める。
逃げ出したって何も解決しないけれど、逃げ出すしか術がないことが悲しくて悲しくて、涙が止まらない。
「寒い……」
このままここにいたら、凍えてしまう。でも、どこに行けば……。
ふらりと立ち上がり、涙を拭いながら夜道を歩き出した。
佳苗先生のおうちに戻れば、きっと佳苗先生たちに迷惑が掛かる。家に戻れば、ママと黒い車の人がいるかもしれない。
結局、おばあちゃまの家に戻ることしかできない……。
結局私は、一人で生活することもできない。先生がいなければ、何もできない。
その先生も、電話に出てくれない。
こんな風に、中途半端に家出をするぐらいしか。