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秘密のピアノレッスン
第18章 見えていなかったもの
すると、居間からよく響く低い声が聞こえてきた。穏やかではない口調が。

「母さんはそうは言うけどね。更紗の男好きはあいつに似たんだな」
「そんなこと口にするものじゃないわよ。元はと言えば、あの女は貴方が連れてきたんでしょう。私は良くしてあげたわよ」

おばあちゃまと、パパの声……?
その後すぐにパパの嘲笑が聞こえ、私は一歩下がって両手で口元を押さえた。冷や汗が吹き出すような感覚に囚われながら。

「どこがだよ。同居中もいびり倒していたくせに、母さんこそよく言うね」
「更紗ちゃんは大事な孫なの。あなたも、更紗ちゃんだけ引き取ってさっさと離縁すればよかったのよ。あんな低俗な女に遺産を残したくないわ」

おばあちゃまの強い口調に、ごくりと固唾を飲む。
ママが……辛い顔をしていたのがまざまざと思い浮かび、心が締め上げられる。
ママが置かれていた背景が、パズルのようにはまり込んで、心が共鳴するかのように切ない思いに駆られた。

きっとママも、逃げたかったんだ。……ここから。

その時、幼い頃の微かな記憶が鮮やかに浮かんだ。
あの、ピアノと、ママと、私の絵は――いつもつらい顔をしているママの笑顔を見るために書いたんだ。

私は部屋に戻って額に飾ってあった絵を取り、レッスンバッグに入れた。
パパとおばあちゃまに気付かれないように、足音を立てずに、つま先でそっと廊下を歩く。

私も、この鳥籠から飛び立って行きたい。
その果てには、きっと奏馬さんが待っていてくれるはずだから……。
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