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秘密のピアノレッスン
第4章 淡い思い
なぜ見ていたのか。

レッスン中の雰囲気だったらきっと答えられないけれど、今なら素直に言える。

「先生の手、きれいです」

声が上ずりそうになった。
先生は、表情を変えないで、窓を外を見ながら頭を掻き始めた。

私よりずっと大人だけれどその仕草はすごくかわいい。


「そうかな。初めて言われたな。今までピアノしか弾いてこなかったからね。僕はピアノと、音楽しか知らないから」

「そういうのは、素敵です……」

本当に素敵だと思う。
自分が、これだ、と感じたものを極めていくのは。

私は、自分で決めたものなんてないし、才能も何もない。
恋愛でも、進路でも、すべてに劣等感が付き纏う。
私には、自分でがんばって勝ち取ったものなんて、ひとつもないから。


テーブルの向こう側で、先生がウエッジウッドのコーヒーカップに口をつけていた。
見とれてしまうほど絵になる姿だ。

「滝沢さんは、大学決まったの?」

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