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秘密のピアノレッスン
第1章 イントロダクション
「あれ? 連絡入ってない?」

その男の人は、片眉を上げて、こっくりとした飴色の革カバーがついた手帳を見ていた。
端正な横顔もだが、姿勢も、指先もとても美しい。

「連絡……ですか?」
「先週母が具合を悪くしてしまって、しばらくレッスンは僕が代わりにすることになったんだけど」
「か……角川先生は、大丈夫ですか!?」

「命に別条はないから大丈夫だよ」と、笑顔も見せずにその人は言った。

「息子の角川奏馬です。よろしく」

私は、持っていたレッスンバッグをぎゅっと抱き抱え、「よろしくお願いします……」と絞り出した。

話を聞いてみると――。
音楽関係の仕事についている奏馬さんは木曜日が休み。
角川先生がこれから毎週木曜日に通院するため、私を含む木曜日の生徒は、奏馬さんに託されることとなったようだった。
音大志望の生徒は引き続き角川先生が見ていたり、お弟子さんの教室を紹介したらしく……。
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