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どうか、その声をもう一度
第1章 はじまりの記憶

青春真っ只中の18歳の頃のたった1ヶ月の記憶。それは、26歳になった今でも色褪せない。

女の子にしては低いのに優しい声。柔らかな唇と、小さな手のひら。右手の指はしっとりしていて、いつまでも触っていたいと思う不思議な手触りだった。

でも、左手の指は硬く、常になにか線を押さえつけたような痕が残っていたこともよく覚えている。

深い海の底のような真っ黒の瞳。ともすれば近寄りがたい印象を与える目は笑うとくしゃりと細くなって、途端に幼くなった。右の目尻にふたつ並んだ泣きぼくろのセクシーさとはアンバランスだった。淡い茶色の髪は地毛だったのだろうか。

初めて出会ったとき、彼女が着ていた丈の長いワンピースは綺麗な藍色で、彼女の不健康なまでに白い肌によく似合っていた。

18年間の島での生活。ある日、突然現れた彼女はまるで竜巻のように俺の心を浚っていった。

顔を見るだけで、声を聞くだけで惹かれていくのに、彼女は俺にそれ以上を求めた。

森の奥の崩れ落ちそうな小屋で、俺たちは秘密を作った。初めて触れた女の子の唇は柔らかくて、少し甘ったるくて、癖になりそうだった。

最初は悪戯にキスをしてお互いの顔に触れあって、ただ、それだけだった。

あの頃は夏休みだったけれど、塾なんてもののない島では2日に1回講習日という名の登校日があった。それが終われば遊びに出ていくクラスメイト達に用事があると嘘をついて自転車を飛ばし、森の奥へ向かう日々。

流れ落ちる汗を手で拭いながら恐る恐る小屋の中を覗きこむと彼女はいつもどこからか持ち込んだキャンプチェアに座っていた。ああ、そう言えばあのキャンプチェアは不思議な柄だった。
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