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どうか、その声をもう一度
第1章 はじまりの記憶

親指の腹で泣きぼくろをそっとなぞるとくすぐったそうに笑った顔。戸惑いを感じさせる俺を呼ぶ声。不安の滲んだ瞳で俺を見ていた。

『ねえ、秀治。大人になろうよ』

ある日、彼女はそう言って白いシャツのボタンを外していった。露わになったオレンジ色の下着。花の刺繍が入っていた。母親の洗濯物で女物のブラジャーなんか見慣れていたのに無性にどきどきしたものだ。

シャツを脱ぎ捨てて、硬直する俺に跨った彼女は震えていた。腕を回して抱き締めると、細い声で俺を呼んだ。ふわりと香った甘い匂いはなんの匂いだったのだろう。

照れくさそうに笑って、俺のTシャツの襟元を掴んだ手の細さ。潤んだ瞳をじっと見つめれば理性なんか吹っ飛んだ。

無我夢中でキスをして、素肌に触れた。柔らかくて、すべすべしていた。ああ、これが女の子の身体なのかとそう思った。

性行為に対する好奇心は人並みにあった。エロ本やエロ漫画の回し読みだってしていたし、友達の兄貴のAVを隠れて観たりもしたことがあったっけ。だが、実物の女の子の裸はあの時、初めて見た。

薄暗い小屋の中、一糸まとわぬ姿になった彼女はどこか神々しくて、危うげだった。触れていなければ、手を、掴んでいなければどこかへ消えていってしまいそうだった。

ぎしぎしと軋む朽ちかけた木の台の上に大きなタオルを引いて、彼女の身体を横たえた。汗の匂いと甘い匂いに混じって、小屋の中に漂う木や埃の匂いを感じた。

『俺で、いいの?』
『秀治がいいんだよ』

それを聞いた時、直感で嘘だと思った。彼女の目は俺を見てはいなかった。
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