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どうか、その声をもう一度
第3章 冬に溶ける憂鬱

きちんと布団をかけて眠る体勢になってからすぐ寝入った秀治とは反対に私は中々寝付くことが出来なかった。規則正しい静かな寝息を聞きながら、秀治の頬をつんつんと指でつついてみる。

優しい秀治。セックスのときだけ、ちょっと意地悪になる。喉の奥まで咥えるフェラはかなり興奮するらしい。乳首をいじられるのは好きじゃないみたい。一番好きな体位は後背位。

セックス以外にも私は秀治の好きなことも、嫌いなことも、殆ど知っている。

昔からバニラアイスは苦手な癖に、ミルクアイスが好きなところとか。カレーは具が分からないくらいどろどろに煮詰まったやつが好きなこととか。秀治との暮らしの中で、こんなこと知らなかったなんてことは出てきたことがない。

「ん……沙英……」

眠っている秀治の口から飛び出した知らない名前に目を瞠った。頬に触れていた指がぴたりと止まる。







沙英って、誰?あなたの、好きな人?




ああ、そうだ。私は秀治の好きな人のことだけは、知らない。



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