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臥龍の珠
第1章 青の婚礼
荊州の中心地、襄陽(じょうよう)から西に二十里(約十キロ)の場所にある隆中。戦の世にあってものどかな佇まいを見せる田舎の邑だ。
山の向こうに日が沈み、星がうっすらと瞬き始める青い時刻、一軒の質素な庵の前にまるで空の色を写し取ったような青い布で巻かれた馬車が停まった。青い布は婚礼の印。中から降り立ったのは、鮮やかな青色の婚礼衣装に身を包んだ花嫁だった。その顔はしきたり通り薄布で覆われており、年齢も容貌も窺い知ることはできない。
花嫁は同じく青い衣装を身に纏った花婿の手に導かれ、庵の中に招き入れられた。その手のあまりの冷たさに、花嫁は思わず身を竦めた。驚くほど冷たく、骨張って荒れた手だ。花嫁は荒れた花婿の手に、良い印象を持つことができなかった。
「黄承彦(しょうげん)の娘、珠(じゅ)と申します」
それでも花嫁はまっすぐに顔を上げ、自ら名乗った。花嫁は名士として知られる黄承彦の娘、珠だった。上質の絹で仕立てられた婚礼衣装が、身動きするたびにさやさやと衣擦れの音を立てる。珠は精一杯目を凝らし、薄布の向こう側を透かそうとした。そこには珠の夫となる人物がいるはずだった。
山の向こうに日が沈み、星がうっすらと瞬き始める青い時刻、一軒の質素な庵の前にまるで空の色を写し取ったような青い布で巻かれた馬車が停まった。青い布は婚礼の印。中から降り立ったのは、鮮やかな青色の婚礼衣装に身を包んだ花嫁だった。その顔はしきたり通り薄布で覆われており、年齢も容貌も窺い知ることはできない。
花嫁は同じく青い衣装を身に纏った花婿の手に導かれ、庵の中に招き入れられた。その手のあまりの冷たさに、花嫁は思わず身を竦めた。驚くほど冷たく、骨張って荒れた手だ。花嫁は荒れた花婿の手に、良い印象を持つことができなかった。
「黄承彦(しょうげん)の娘、珠(じゅ)と申します」
それでも花嫁はまっすぐに顔を上げ、自ら名乗った。花嫁は名士として知られる黄承彦の娘、珠だった。上質の絹で仕立てられた婚礼衣装が、身動きするたびにさやさやと衣擦れの音を立てる。珠は精一杯目を凝らし、薄布の向こう側を透かそうとした。そこには珠の夫となる人物がいるはずだった。