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臥龍の珠
第4章 荊州争乱
女子供を含め十万まで膨れ上がった劉備勢の行軍は、亀の歩みよりも遅くなった。群衆はのろのろと南へ進む。
劉備の目的地が江陵と知った曹操は急遽騎馬による精鋭軍団を編成し、江陵へと差し向けた。十五万という大軍を華北から率いてきた曹操も物資を現地調達する必要があった。そのため劉備に先んじて江陵へ入り、物資を確保しなければならなかった。
やがて当陽県長坂という場所で曹操軍騎馬隊は群衆に追いついた。だが十万もの人々の中では、劉備の所在を掴むことができない。
「じきに私の居場所も知られるだろう。迎え討つのが良いだろか」
「いいえ。漢中で雲長殿が船を用意して待っています。合流し、夏口へ向かいます。気取られぬうちに漢中へ移動しましょう」
劉備はわずかな護衛と家族を連れた他、軍勢はほぼすべて関羽が率いて別途江陵で合流すると聞いていた。だが、それは嘘だったということだ。
「民はどうするのだ」
「このまま置いて曹操に献上しましょう」
「彼らはこの劉備を頼ってくれたのだぞ!」
「ではここで首を落とされたいのですか?」
亮は静かな目を冷たく光らせ、声を荒げる劉備を真っ向から見つめた。氷のような眼差しは硬く、何の感情も感じられない。
「現在の曹操に無辜の民は殺せません。中原統一を狙う今、そのようなことをすれば民は完全にそっぽをむきます。民心を掌握するためにも、今ここにいる民を吸収するしかないのです」
「……すべて先生の狙い通りという訳か」
群衆を目眩ましに使い、曹操に吸収させて物資を浪費させる。まるであらかじめ決まっていたかのように完璧な計画だった。そして劉備には十万の群衆を策に使うなど、考えもつかない。さすが「臥龍」だとため息をつくしかなかった。
「私としては当初の予定通り江陵へ入りたかったのです。ですが、不測の事態に備え、あらゆる可能性を考え策を練っておくのが私の役割です」
劉備は情に篤い。だが情に流されるだけではなしえないこともある。亮はそんな劉備に冷水を浴びせかけ、為政者としての自覚を持ってもらうことだと思っていた。
劉備の目的地が江陵と知った曹操は急遽騎馬による精鋭軍団を編成し、江陵へと差し向けた。十五万という大軍を華北から率いてきた曹操も物資を現地調達する必要があった。そのため劉備に先んじて江陵へ入り、物資を確保しなければならなかった。
やがて当陽県長坂という場所で曹操軍騎馬隊は群衆に追いついた。だが十万もの人々の中では、劉備の所在を掴むことができない。
「じきに私の居場所も知られるだろう。迎え討つのが良いだろか」
「いいえ。漢中で雲長殿が船を用意して待っています。合流し、夏口へ向かいます。気取られぬうちに漢中へ移動しましょう」
劉備はわずかな護衛と家族を連れた他、軍勢はほぼすべて関羽が率いて別途江陵で合流すると聞いていた。だが、それは嘘だったということだ。
「民はどうするのだ」
「このまま置いて曹操に献上しましょう」
「彼らはこの劉備を頼ってくれたのだぞ!」
「ではここで首を落とされたいのですか?」
亮は静かな目を冷たく光らせ、声を荒げる劉備を真っ向から見つめた。氷のような眼差しは硬く、何の感情も感じられない。
「現在の曹操に無辜の民は殺せません。中原統一を狙う今、そのようなことをすれば民は完全にそっぽをむきます。民心を掌握するためにも、今ここにいる民を吸収するしかないのです」
「……すべて先生の狙い通りという訳か」
群衆を目眩ましに使い、曹操に吸収させて物資を浪費させる。まるであらかじめ決まっていたかのように完璧な計画だった。そして劉備には十万の群衆を策に使うなど、考えもつかない。さすが「臥龍」だとため息をつくしかなかった。
「私としては当初の予定通り江陵へ入りたかったのです。ですが、不測の事態に備え、あらゆる可能性を考え策を練っておくのが私の役割です」
劉備は情に篤い。だが情に流されるだけではなしえないこともある。亮はそんな劉備に冷水を浴びせかけ、為政者としての自覚を持ってもらうことだと思っていた。