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臥龍の珠
第4章 荊州争乱
「珠、こちらへ」

 亮は珠のいる屋敷に戻り、固い顔で手招いた。劉備は拠点を新野から、より襄陽に近い樊城(はんじょう)に移していた。このご時世、家族だけを新野に残す訳にもいかず、皆家族を樊城へ伴ってきたのだ。

「景升公が亡くなられました」

 血の繋がりはないが、劉表は珠の叔父にあたる。叔父の死を知らせないわけにはいかない。珠は覚悟していたのか淡々と応じた。

「……叔父上にはもう少し生きていていただきたかったです」

 曹操が荊州を狙って動き始めた今、荊州の押さえであった劉表が亡くなったのはあまりにも間が悪い。しかも次期荊州牧を巡りお家騒動にもなりかねない火種を孕んでいるとなればなおさらだ。おそらく劉ソウが跡を継ぐと思われるが、若く戦いの経験がない劉ソウでは歴戦の曹操にかなうはずもない。命を代償として戦わずして降伏することになるだろう。降伏となれば、客将にすぎない劉備は安住の地を終われることになる。力ずくで劉ソウにとって変わり、劉備が曹操に対抗するという亮の案は義に篤い劉備によって却下されてしまった。

「仕方ありません。いつでも樊城から逃げられるように準備をしておいてください」
「はい。乱世なのですね……」

 劉表が荊州を治める間、荊州は平和だった。人々は戦に終われ、平和な荊州を目指した。亮の家族も同様だった。しかしその平和はつかの間のものに過ぎなかった。

 乱世という時代の荒波が、今まさに荊州を飲み込もうとしていた。
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