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臥龍の珠
第4章 荊州争乱
 南進した曹操は軍を進め、劉備の去った新野に駐留した。曹操は新野に大軍を置き、襄陽をもぎ取る準備を進めている。続々と増え続ける曹操軍に恐れをなした若い劉ソウは曹操に降伏し、劉備は襄陽に程近い樊城から逃げ出さざるをえなくなった。

「これから江陵に向かいます」
「わかった。すぐに出発の号令をかける」

 劉備の軍勢は亮の指示で江陵目指し一路南下を始めた。江陵は荊州南部の中心都市だ。物資も人民も豊富で劉備の軍勢を養うのに十分だった。江陵で英気を養い、再起をはかる計画だ。

「玄徳様。進路を襄陽城内に向けてください」

 襄陽城に差し掛かった時、亮は劉備に願い出た。劉備は意外そうに亮を見つめる。

「なぜだ? 曹公に降伏した御曹司に用はないが。まさか孔明よ……」
「ご安心ください、玄徳様。用があるのは彼ではありません」

 劉備は亮が劉ソウの命を狙うのではないかと危惧していた。だがその案は劉備に却下されたはずだ。

 亮の「用」とは降伏に反対した家臣を拾い上げ、自陣営に組み込むことだった。襄陽に残っていても曹操に処罰されることが予想される家臣たちは、喜んで劉備に従った。

 そしてさらに――。

 戦によって襄陽が荒れることを恐れた住民たちが、劉備の軍勢に加わったのだ。劉備の軍勢は襄陽から逃げ出した住民たちが加わり、たった一晩で十万を越えるまでに膨れ上がっていた。
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