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第10章 王の選択

「何だと！？呪いを解くことは出来ぬとは」
ツグミの言葉を聞いた王が叫びました。
副大臣は驚きのあまり、目を見開いたまま絶句しています。


「はい。他の者に出来るのは、呪いを別のものに移すことだけですね」
「別のものとは、何だ」
王の鋭い問いかけを物ともせず、ツグミは平然と答えました。


「生まれたのち一昼夜すら経ていない赤子です」



「なんと！？」
「それは、」
ツグミの答えに、王と副大臣は激昂しましたが、次の瞬間、はっと我に返りました。
平然と応えていたツグミの手は固く握られ、小刻みに震えています。
ツグミが何かをした訳ではないのです。
問い詰めたところで、どうすることも出来ないのは、ツグミも同じでしょう。
王は一度目を瞑り、深く息を吸って、吐き出しました。
そして、なるべくゆっくりと、ツグミに問いかけました。

「呪いを移したとしたら、その赤子は、どうなるのだ」

ツグミは王と目を合わさずに、答えました。

「分かりません･･･が、別のものに移せば、呪いは確実に弱まるもの。赤子が命を落とすようなことは、無いでしょう」

王は、考え込みました。
このまま、この国の大地を、からからに干乾びさせるか。
それとも、その呪いを、生まれたばかりの赤子に移すのか。
生まれて一昼夜経たぬ赤子など、普通は探し出すのが簡単ではないでしょう。
ですが、幸か不幸か、今ここには、生まれたばかりの赤子が居ます。

――生まれたばかりの、我が子が。

「王。市中に赴いて、生まれたばかりの赤子を探しましょう。探せば一人くらいは、望まれない子がおりましょう」
赤子を見て考え込んでいる王を見て、副大臣は堪らず声をかけました。
「ああ･･･いや･･･いや、探すまでも無い」
王はそう言って、赤子から目を移し、后を見やりました。
一旦わが子に目をやった后は、気丈にも、王の目をしっかりと見返して来ました。

「自分が逃れた運命を、民に背負わせる訳には行かぬ」
「王！」

王の決断と副大臣の叫びを聞きながら、后は、目を伏せました。

つい先刻まで、自分と一身同体であった赤子です。
命に関わることにはならないとは言え、どのような結果になるのか分からない呪いを背負わせることなど、できるでしょうか。
王は、無言で后を見詰めています。